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グーグルグラスの販売中止に見る、今後のスマートグラスの展望

その他 2015.03.04

グーグルグラスの販売中止に見る、今後のスマートグラスの展望

米グーグルは、1月19日(米国時間)をもってベータテスター向けグーグルグラス(Explorerエディション)の販売を中止しました。
2012年に製品発表、昨年5月にはアメリカで販売が開始され、いよいよ日本での発売も間近と期待されていた最中のニュースに、発売を待ちわびていた弊社も驚きを隠せませんでした。
ただし、製品開発自体を止めてしまうということではなく、個人向け製品開発をとりあえず見直し、BtoB向けの製品開発に軸足を移していくということのようです。
人々のライフスタイルに大きな変化をもたらす可能性を秘めた革新的デバイスなだけに、製品開発自体の中止ということではないとのことで、まずは一安心というところでしょうか。

販売中止の理由

グーグルはなぜグーグルグラスの販売中止を決めたのでしょうか。
既に製品としての開発が進み、一般の認知も広がった製品の販売を中止するという大きな決断の背後には様々な理由があったと思いますが、中でも安全性の問題とプライバシーの問題が大きな要因と言われています。

安全性の問題

自動車の運転中や歩行中にグーグルグラスを使用することで安全性が損なわれると当初から議論されていました。現在の「歩きスマホ」の問題と同様に、グーグルグラスのディスプレイに表示される情報に没入してしまうことで、運転や歩行時の事故につながる危険が増すという指摘です。

アメリカでは、運転中の着用を禁止しようと動き出していた州もあるようです。

プライバシーの問題

安全性の問題以上に大きく取り上げられ議論された問題がプライバシー問題です。グーグルグラスは前面にカメラが内蔵されており、ウィンクの動作や音声でのコマンドにより、デバイスに触ることなく写真や動画を撮影することができます。
スマートフォンでの写真あるいは動画撮影であれば、スマートフォンを構えて撮影するため、周りからは撮影していることが明確に判別できますが、先のとおりグーグルグラスは端末に触れることなく撮影ができるため、周りからは撮影中なのか否かが一見してわからず、そのことがプライバシー侵害につながる恐れがあると危惧されていました。
こうした不安から、アメリカでは店内でのグーグルグラスの使用を禁止する店も現れているようです。

こうした問題を受け、グーグルは昨年初めにグーグルグラスのユーザー向けに、グーグルグラスでやってほしいこと、やめてほしいことのリストを公開しました。そのリストの中には以下の内容が記載されています。

・許可を取りましょう。部屋の片隅に一人で立って、グーグルグラスでそこにいる人たちをだまって録画することはやめましょう。
・グーグルグラスは短時間で情報を得て、その後すぐに、もともとやっていた行動や作業に戻るためのものです。長い間グラスの画面を見続けたままだと、周りの人たちにはおそらく変に見えるはずです。
・挙動不審な態度や失礼な態度を取らない。周りの人を尊重し、彼らがグーグルグラスの説明を求めてきたら丁寧に説明しましょう。また、携帯電話の使用が禁止されている場所では、グーグルグラスも切りましょう。

こうした対応をしたものの、社会的な意識が高まったこれらの問題を克服できなかったことが、グーグルグラスの販売中止につながったと言われています。

 

グーグルグラスの業務利用

このように、個人の日常利用という観点では、現時点でそのネガティブな問題を超えられていない状態ですが、一方で業務利用という観点では、グーグルグラスを活用した様々な実証実験が行われており、そこでの成果が報じられています。
グーグルは、グーグルグラスの企業向けソリューション開発を手がける企業を対象とした認定パートナープログラム「Glass at Work」を昨年4月に立ち上げており、現在は10社が認定パートナーとなっています(「Glass at Work」プログラムは現在も継続中)。
これらパートナー企業を中心にグーグルグラスを活用した実証実験やBtoB向け開発が積極的に行われており、また欧米だけでなく日本においても、企業や団体による様々な試みが行われています。

 

DHLのケース

倉庫作業におけるグーグルグラス(スマートグラス)活用の事例です。

DHLは「Glass at Work」認定パートナーであるUbimaxとの提携により、スマートグラスとAR(拡張現実)技術を活用して倉庫におけるピッキング作業を効率化する「ビジョンピッキング」のパイロットプロジェクトを実施しました。
ビジョンピッキングは、スマートグラスに表示されるAR映像を通じて作業員に指示を出すことで、ピッキング作業の迅速化とミスの削減を目指しています。

実証実験はオランダにある倉庫で行われました。
作業員はグーグルグラスあるいは「VuzixM100」などのスマートグラスを装着し、そこに表示される倉庫内の通路や製品保管場所、数量等の作業情報に基づいてピッキング作業を実施。常に両手を使って作業ができるということから、決められた時間内に2万品目以上をピッキングし、9,000件の注文を完了させました。これは、従来のピッキング作業効率を25%向上させた結果だったということです。

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スマートグラスに表示されるAR映像

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AR映像が示す作業情報の詳細

出典:DHL

 

日本航空のケース

航空機の整備におけるグーグルグラス活用の事例です。

日本航空(JAL)と野村総合研究所(NRI)は、グーグルグラスをはじめとしたウェアラブルデバイスを活用し、先進的な業務スタイルの追求を目的とした実証実験を米ホノルル空港で実施しました。
ウェアラブルデバイスの持つカメラ機能や情報伝達機能を活かして、JAL本社のスタッフが遠隔地にいる実務スタッフへの後方支援を行うと同時に、実務スタッフにはハンズフリー環境を提供することで、現場作業の効率性の向上や負担軽減を実現することを目指しているとのことです。

航空機の整備業務では、従来は現地の整備担当者から電話やメールで機体の傷などの報告を受け、日本の本社からも電話やメールで指示をしていました。
実証実験では、整備担当者が点検中に見つけた傷や不具合をグーグルグラスにより画像や映像で撮影し、日本の本社に送信。AR(拡張現実)技術を組み合わせて、グーグルグラスに表示された画像に重なるようにして指示の文章が吹き出しになって表れます。端末を装着したまま音声通話ができるため、指示を聞きながら両手で作業ができるとのことです

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出典:日本航空 日本経済新聞

 

広島平和記念公園での観光案内のケース

観光案内におけるグーグルグラス活用の事例です。

山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会と総務省中国総合通信局は、広島市の広島平和記念公園でグーグルグラスを活用したAR(拡張現実)アプリのデモンストレーションを実施しました。

デモンストレーションは、ソフトバンクモバイルが開発した地域情報・観光情報配信アプリ「ふらっと案内 for Google Glass」を利用して実施されました。
このアプリは、グーグルグラスを通じて利用者の目前に地図を浮かび上がらせ、観光スポットまでの方向や距離などをナビゲーションするというものです。参加者は、公園内にある原爆ドームなどの観光スポットの方向、距離を計測するなど、観光情報ツールとしての操作性、効果などを検証しました。
参加者からは「スマートフォンのように下を向かなくても、情報を得られるのは便利」などの肯定的な評価が得られたとのことです。

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「ふらっと案内 for Google Glass」のAR画面

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「ふらっと案内 for Google Glass」のナビゲーション画面

出典:総務省 マイナビニュース

 

スマートグラス活用への取り組み

このように、業務利用の領域ではグーグルグラスを活用した取り組みが数々行われ、業務の効率化や業務の精度向上に成果をあげているケースも多く報じられています。そして、これらのケースにみられる共通点は、グーグルグラス(さらにはスマートグラス全般)の優位性をうまく生かした取り組みであるということだと思います。
では、スマートグラスの優位性とは何でしょうか。その大きな優位性は以下の2点ではないかと思います。

ハンズフリー

グーグルグラスをはじめ多くのスマートグラスは音声コマンド等での操作が可能で、端末に触れる必要が少ないため、端末を使いながらでも両手を自由に使うことができます。
先のケースにもあるとおり、スマートグラスを使えば、現場作業などでマニュアルや作業指示書を手に持って確認するために作業を中断する必要がなく、またはノートPCやタブレット端末を操作するために視線を大きく外す必要がありません。

視界の共有

グーグルグラスをはじめ多くのスマートグラスは前面にカメラを備え、そのカメラが捉える視界の映像を遠隔地にいる別の人と共有することができます。
現場のその時々の細かい状況を、視界映像の共有によってその場にいなくても確認することができるため、その時々の状況に応じた正確な作業指示等をリアルタイムで遠隔から作業者に伝えることが可能です。

こうした優位性をもったスマートグラスを活用することによって業務効率の改善や業務精度の向上といった課題解決に成果をあげたケースは、言い換えれば、そこにスマートグラスを活用する「必然性」があったケースとも言えるのではないでしょうか。

そしておそらく、今後グーグルグラスあるいはスマートグラスを活用したサービス開発では、この「必然性」を押さえることが大きなポイントになるのではないかと考えます。

 

冒頭にも書きましたが、グーグルは一旦グーグルグラスの開発をBtoB向けにシフトさせるようですが、先に見たケースのように、BtoBないし業務利用の領域にはまだまだスマートグラスであるべき「必然性」をもった利用方法が数多く存在するものと思います。
この領域でスマートグラスを活用した取り組みがさらに活発になり、革新的なサービスが数多く生まれることが、その普及に向けた第一歩のようにも感じます。その意味では、グーグルグラスのBtoB領域へのシフトは正しい道筋のようにも思われます。

今では個人の生活になくてはならないパソコンや携帯電話、そしてそれらを取り巻く各種サービスの多くも、もともとは業務利用を中心に発展したものが、いつしか個人の日常生活にまで波及して一気に普及したように、スマートグラスも業務利用の領域で着実に成果を積み上げることが個人利用での普及につながるのではないでしょうか。
もちろん、個人利用での普及の過程においても、スマートグラスであるべき「必然性」を伴ったサービスの提供や使い方の提案がなされることが大事になると思います。

今回のグーグルグラスで指摘されたような問題も、一方ではそれを回避するような技術的な手だてが講じられるとともに、個人利用における「必然性」をもったサービスが数多く提案されれば、スマートグラスの日常利用に対する社会的な合意形成が徐々になされることも期待できると思います。

 

弊社のウェアラブルデバイスへの取り組み

弊社は今年からウェアラブルデバイス向けサービスおよびアプリケーションの研究開発を本格的にスタートいたします。
以前の記事でも取り上げていますが、今ではグーグルグラス以外にも多くのスマートグラスが開発され、製品化されているものもあります。
弊社は、グーグルグラスも含め、これらスマートグラスを活用した革新的で世の中を便利にするようなサービス、スマートグラスであるべき「必然性」をもったサービスの研究開発に取り組み、その価値を世の中に提案して参ります。
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