チャットボットとは何か?サービス開発の指標と参考になる国内・海外の7事例
制作/開発 2017.12.07
VR、IoT、ビックデータ、FinTech、自律走行 etc 今後有力な成長分野は様々あります。それらの分野の多くに共通して言えるのは、AI=人工知能が重要な役割を担い、技術のコアになっているということです。AIは、ディープラーニング、画像認識、自然会話の実現など、現在のビジネスやサービスを根本から変革するポテンシャルを内包しており、多くの人や、企業が研究を進めています。
その未来を最も身近に、体験できるサービスが「チャットボット」であると考えています。チャットボットは未来技術が詰め込まれたサービスであると感じます。
既にウェブマーケティングに熱心な企業やサービスでは「チャットボット」の積極的な事業導入が進められています。
この記事では、今後チャットボットを自社で活用するためヒントをまとめます。
実際にチャットボットを開発する際に、参考となるような国内外の事例やチャットボットの活用ケース、使用分類なども説明してまいります。
目次
チャットボットとは何か?
自動化を実現する「サービスの強化・補完ツール」
チャットとは、インターネットを利用したリアルタイムのコミュニケーションツールです。
ボットとは、「ロボット」が語源で、人間のさまざまな活動を代行する意味を持ちます。(現状人工知能の稼働領域はかなり限定的。実際は、ほとんどが人工無能と呼ばれ、あらかじめ人が設定した内容を自動的に処理している。)
そしてチャットボットとは、ユーザーとのコミュニケーションをチャット上で無人・自動で行ってくれるプログラム全体を指します。
現在、チャットボットが注目されているのは、これまでビジネス上で行われてきたユーザーとのコミュニケーションは、チャットボットによって「強化」「補完」され、効果的であると認識されてきたからです。
チャットボットの提供場所は?
参考:Activate Tech and Media Outlook 2017
チャットボットによるサービスを考えるにはまず提供場所を考える必要があります。どのメッセンジャーアプリを選ぶか?どのOSを選択するか?音声で提供するか?テキストで提供するか。
サービス特性やターゲットとする顧客がどこにいるか?によって適切なポジショニングを検討しましょう。
多様化するチャットボットの利用方法
テクノロジー全体に言えることですが、例に漏れずチャットボットも欧米主導で進められており、現在多様な展開を見せています。
Facebookメッセンジャーのようなメッセンジャーアプリにとってチャットボットはアドオン機能として捉えられています。Facebookでは、必要なチャットボットをFacebook Discoverからユーザーが自由に機能追加していく形式をとっています。
GoogleにおけるチャットボットであるGoogleアシスタントは、SEOの提供形式に近しく、ユーザーが必要な情報を問いかけることで、ロボットが最適な呼び出し、返答する形をとっています。
なぜ今、チャットボット導入が必要なのか??
(1)現時点でユーザーが最も慣れているインターネット操作だから
LINEやFacebookメッセンジャーでのテキストによるスピーディーなコミュニケーションは、日常的なインターネットの利用者であれば、ほぼ全て人が迷わず操作可能な状態にあります。
チャット型のUIは、現在若年層からお年寄りまで、最も簡易なインターネット操作方法であると言うことができます。
SNSアプリ利用者<メッセージングアプリ利用者
参考:Messaging apps are now bigger than social networks
世界的に見て、既にSNSアプリ利用者よりも、メッセージングアプリを利用しているユーザーが多くなっています。
SNSのアカウントを持っているユーザーは、ほぼ全員メッセージングアプリを利用していることが想像できますが、SNSのアカウントを持っていなくても、メッセージングアプリは利用しているという人が、幅広い年齢層において広がっています。
LINEのアクティブユーザー数は驚異的
メッセージングアプリ「LINE」の国内月間アクティブユーザー数は7,000万人以上※となっています。※参考:LINE株式会社 2017年第2四半期決算説明会
月間のアクティブ率(アプリダウンロード者のうち一ヶ月にアプリを起動したユーザー)は、96.6%。他のスマートフォンアプリとは桁違いの利用頻度であることからも、メッセージングアプリが人々に密着したアプリであることが分かります。
(2)日常的な接点と自社サービスを結びつけることが出来るから
スマートフォン利用の85%はウェブではなくアプリ、毎日使うアプリはたったの6個というデータがあります。
ユーザーのスマートフォン利用や、スマートフォンでの活動は、かなり固定化されてきています。ですので、アプリやウェブサービスで新規サービスを立ち上げる際に、ビジネスインパクトを出すことは非常に困難になってきており、成熟された市場になりつつあるということができます。
スマートフォンで最も利用されているサービスは、メッセージングアプリです。
新しいサービスで、顧客と接点を築き上げたいと考えるのであれば、現在スマートフォン利用者の中心にあるメッセージングアプリを起点とし、サービス展開を検討することは、必然の流れになってくるものと考えられます。
(3)未来技術が詰め込まれた最も身近な体験だから
VR、IoT、ビックデータ、FinTech、自律走行など今後有力な成長分野は数多くあります。それらを支える中心にあるのはAI=人工知能の技術です。
現在はデータの蓄積期間。今後自然会話の実現や、ユーザー単位でのカスタマイズされたサービスを提供するための研究が進んでいきます。
その時、人工知能を最初に、最も身近に多くの人が体感することができるようになる場が、チャットボットになるでしょう。
チャットボット普及で起こるマーケティングの変化
チャットボットが普及することで、これまでのマーケティング活動に変化が生じます。
これまでのウェブマーケティングは「ユーザーに情報を探しに来てもらう」が当たり前の導線でした。ユーザーは明確な情報検索ニーズを固めてからサイトやアプリに訪れます。
チャットボットの普及によって、テキストや音声によるコミュニケーションによる導線が主流になります。ユーザーは明確な情報検索ニーズをコミュニケーションの間で固めていきます。
「調べる」から「聞く」へ。こうした導線の変化がマーケティングに及ぼす変化は3つあります。
サービス設計が変わる
より簡潔なサービス設計がスタンダードになります。
チャットや音声によるインターネット操作は、これまでのサービス設計を覆す可能性があります。スマートフォン画面や、パソコンモニターといった操作インターフェイスを必要としないサービス提供が実現しています。
そこに、これまでのウェブサービスを作る上で必要であった、デザインやコーディングは存在しません。
いかに少ないコミュニケーションで、ユーザーをゴールに導くことができるか、簡潔なサービス設計を構築できるかがポイントになってきます。
集客方法が変わる
サービスへのアクセス手段は「検索」に、「チャット」「音声」が加わります。
現在、ユーザーは探したい情報があればブラウザで検索したり、アプリをダウンロードして日常的に利用しています。企業は、そのためにSEO対策を施したり、広告出稿、PRなど行い集客を図っています。
今後、ユーザーが必要な情報を探すという行為自体は変わらないものの、メッセージングアプリ経由でのサービスへの流入が増えていくことになります。サービス提供者である企業は、メッセージングアプリ経由での流入への対応が必要になってきます。
マーケティング指標が変わる
集客方法が変わっていくと、マーケティング目標やKPIといった指標も変化が必要です。
すでにGoogleやFacebook、LINEといったメッセージングサービスのプラットフォーマーの多くは、チャットボット利用を外部のデベロッパーやサービス提供企業へ開放しています。
これまでウェブマーケティングの指標は、「検索順位」や「PV」「ダウンロード数」「MAU」などでした。これらのウェブマーケティング指標に、チャットボットの指標軸が加わることになる。
例えば、集客手法の一つである「検索」に対する対策はブラウザではSEO(検索エンジン最適化)と呼ばれますが、チャットボットではBEO(ボットエンジン最適化)と呼ばれます。
BEOの評価指標は、
- 1日あたりの累計対話時間:1日あたり、何分会話されたか
- 1日当たりセッション回数:1日あたり、何回利用されたか
- 正確性:ユーザーの言葉や文脈をどれだけ汲み取り、自然な応答を返せたか
- 満足度:人間ユーザの発話(音声 or テキスト)の状況や文脈 を どれだけ汲み取り、自然な応答を返せたか
Googleなどは評価の高いボットを優先的に呼び出していくようです。このあたりはSEOと近しいマーケティング指標になりそうです。
チャットボット導入に必要な3ステップ
「チャットボットで売上増」「チャットボット導入は簡単」「顧客対応はチャットボットで代替できる」は絶対ではありません。
必要な場所で、適切な導入設計を行うことによって成功する可能性を高めることができます。チャットボットをサービスへ導入し、成功をより確実にするには不可欠な3つのステップがあります。
1stステップ:導入の目的を明確にする
会社のサイトに「チャット問い合わせ」を設置すれば問い合わせが増える!ということはありません。
チャットボット導入で何を解決するか?その必要性を真剣に議論する必要があります。
例えば、
- 24時間365日対応を実現し、顧客の満足度を高める
- 問い合わせのオペレーション業務を減らすことでコストを削減する
- 顧客のスマートフォンにチャットメッセージを送りサイトの流入数を増やす
など導入の目的によって、取り組むべき姿が大きく変わります。
2ndステップ:提供範囲を限定する
チャットボットは万能ではありません。また、ターゲットとなる顧客全てがチャットでのコミュニケーションを望んでいるとは限りません。
確実にチャットボットで効率化を図ることができるケースはありますが、それがどのプラットフォームを選択した場合なのか?現状のどの部分に適用するのか?どこまでチャットボットで対応するのか?といった適用範囲を限定することは非常に重要です。
例えば、
- 自社ホームページやスマートフォンアプリ
- 公式LINEアカウントやFacebookページ
- 入力フォーム
など、目的に応じ、最も効果的な導入箇所を選定する必要があります。
3rdステップ:コミュニケーション設計
店舗での接客の場合、表情を見ながらコミュニケーションができます。
チャット、特にボットでのコミュニケーションだと、予め接客の状況を想定しながらコミュニケーションを設計する必要があります。
チャットボットならではのステップや操作案内を示したり、年齢層に応じた説明やスピード、サービス利用頻度に応じたやり取りなど細やかなコミュニケーション設計が大きな効果差を生みます。
例えば
- フリー入力は極力使わずボタンでの選択入力を優先する
- ストレスに感じるメッセージ量を送信しない
- ボットが万能でないことを伝えサービスハードルを下げておく
など、細やかな配慮がユーザーの利用を促進します。
チャットボット導入に適した4分類と国内・海外事例
チャットボット導入に適した4つの分野
チャットボットは万能ではありません。現在、運営しているサービスを補完する機能として、適用範囲を絞って導入することがベターだと考えます。
チャットボット導入に適用範囲として導入が盛んな分類を「シンプル化」「サポート」「EFO(エントリフォーム最適化)」「プッシュ機能」の4つに分けました。
(1)サービスの「シンプル化」事例
チャットボットを活用し、サービスをよりシンプルに(再)構築するケースです。
チャット導入によって、これまでの体験が確実にシンプルになるという前提の元、シンプル化が確かな利便性を備えている必要があります。
DoNotPay(AIチャットボットによる法律問題の手助け)
駐車違反切符に対し「罰金を受けた時に標識はしっかり見えていた?」「周囲に駐車スペースは十分か?」といったコミュニケーションをチャットボット上で行います。その内容を分析し、取消しとなった過去の類似事例など、異議申し立てに必要な情報を集め、異議申し立ての申請書を作成してくれるサービス。
- 導入目的:
これまで弁護士に依頼できなかった弱者を救う。駐車券問題ボットでは、人びとの930万ドル(10億5千万円)を節約し、37万5,000件の紛争を扱った。
- 提供範囲:
DoNotPayサイト内で提供中。駐車券問題から始まり、訴訟文書の作成を助けるボットを1,000種以上内蔵している。
- コミュニケーション設計
IBM Watsonの「Speech to Text(音声や会話からテキストを書き起こす機能)」「Text to Speech(テキストから自然な音声を合成し、発生する機能)」を活用している。難民訴訟問題の解決にアラビア語対応機能を強化中。
Woebot(AIチャットボットでの認知行動療法支援)
人工知能を搭載しており、ボットは会話の中で対象者の機嫌・ムード、症状などをトラッキングしていく。そのデータに基づいて認知行動療法をベースにしたアドバイスを行っていく。
- 導入目的:
認知行動療法を行う医師はまだまだ少なく、診療やカウンセリングを行うことができる患者数には限りがあります。人(医師)に対して相談しづらい心理的な悩みを相談するにはチャットボットが向いている場合もあります。自殺願望など重い症状には効果が薄いものの、一定の効果を実証済み。
- 提供範囲:
Facebookメッセンジャーを活用して提供。
- コミュニケーション設計
会話はコミカルなトーンで進み、時折冗談を挟みます。1日1回のセッション最大10分程度、内容は非常に簡単でシンプル。動画やテキスト、言葉遊びのコンテンツが、カウンセリング状況に応じて対象者へ提供。ボタン選択を多用して進められるためユーザーのストレスは非常に少なく設計されている。
(2)サービスの「サポート」事例
「FAQ」や「問い合わせ」などのサービスにおける疑問点解決やカスタマーサポート。
カスタマーサポートから発展し、売り上げ増加や成約数の増加のための営業的なサポート、サービス利用の促進まで担うチャットボットも現れている。
AdmitHub(AIチャットボット搭載の大学学生課アプリ)
大学生活で必要となる様々な手続きや情報取得に特化したモバイルアプリ。大学のスケジュール確認から、大学生の疑問対応、手続きまでをチャットボット上で行うことができる。
- 導入目的:
生徒に合わせた新しいコミュニケーションツールの導入によって、24時間365日対応を実現。10人以上のフルタイム職員分稼働となっているとともに、夏に大学をやめる学生が21.4%も減少した。
- 提供範囲:
大学公式アプリ内で一部機能として提供している。
- コミュニケーション設計
講義登録、時間割、図書貸出、金銭的支援の手続き、大学イベント紹介まで、個人に特化し、細やかなやり取りが設計されている。
H.I.Sチャットサポート(ボットと人のハイブリットチャットサポート)
サポートに留まらない接客(営業)ボット。現在は、機械と人間のハイブリッドで対応。H.I.Sはチャットボットを、年々増えていくウェブ経由での問い合わせニーズに対する最適解と捉えている。単なるコールセンター的な対話サポートだけでなく、売上げアップのための「接客」を実現を目指している。
- 導入目的:
問い合わせ対応に掛かる人的コストの削減、さらに申込数の増加までを目的としている。
- 提供範囲:
FacebookメッセンジャーとHISサポート(よくある質問)ページ内で機能提供。
- コミュニケーション設計
基本的なFAQへのチャットボット対応は前提として構築ており、その上でユーザーに最善の旅行プランを提案するコミュニケーションが働いている。(例えば、「2泊3日の台湾旅行は滞在が短いので、往路は午前の便、帰路は午後の便がオススメです。」など)
(3)サービスの「EFO(エントリーフォーム最適化)」事例
これまでのフォーム入力をチャット形式を用いることでコンバージョン率(入力完了率)を高める施策。
FiNC(チャットボット形式の個人情報設定入力)
「フィットネスのためのパーソナルコーチ」というサービスコンセプトを、アプリ立ち上げ直後から直感できる表現を採用。サービスの説明からプロフィール情報の入力まで一貫してチャットによる対話で進む。
より詳細はこちらの記事でも紹介(FiNCアプリの「チャット形式入力フォーム」はフォームUIの新トレンドになりうるか!?そのメリットと課題)
- 導入目的:
プロフィール情報入力負荷の軽減と、アプリ立ち上げ直後からのサービスコンセプトの印象づけ。
- 提供範囲:
FiNCアプリ内アクティベーション時。
- コミュニケーション設計
個人情報に関わる内容に関しては、セキュリティの軽さイメージを払拭するために、十分な補足説明を施している。アプリチャットならではの自由な表現や挙動がユニークで操作しながらサービスを楽しむことができる。
CORK社 ムッタbot選考(チャットボットによる採用関連情報入力と選考)
「フィットネスのためのパーソナルコーチ」というサービスコンセプトを、アプリ立ち上げ直後から直感できる表現を採用。サービスの説明からプロフィール情報の入力まで一貫してチャットによる対話で進む。
より詳細はこちらの記事でも紹介(FiNCアプリの「チャット形式入力フォーム」はフォームUIの新トレンドになりうるか!?そのメリットと課題)
- 導入目的:
エンジニアの応募者数増加と会社ブランドのPR。
- 提供範囲:
LINEチャットボットにて提供。
- コミュニケーション設計
宇宙兄弟の世界観をチャットボットで表現。画像やテキストを交えながらコミュニケーションを進めることができる。これまでの機械的な採用情報入力を、会社ブランドを交えた立体的な情報コンテンツへと昇華させている。
(4)サービスの「プッシュ機能」事例
情報更新やお知らせ、サービスへの来訪を促すためにチャットへメッセージをプッシュする。再来訪や顧客関係の維持のために活用される。
ゴルフダイジェスト・オンライン(チャットボットによるキュレーションコンテンツの配信)
定められた時間に、ボットがキュレーションしたGDOのコンテンツを届けてくれるサービス。メールマガジンやアプリやブラウザのプッシュ通知の代替・補完手段として増えている。ウェブメディアが最も取り組みやすいチャットボット活用方法の一つ。
- 導入目的:
ユーザーのリテンション、サイト再来訪数の増加。メッセンジャー上でクーポンを配信したところ30%のCVR(クーポン獲得)となった。
- 提供範囲:
Facebookメッセンジャーにて配信。
- コミュニケーション設計
ユーザーの好みや配信時間を予め選択設定させることで、スパム情報になることを避けている。
チャットボットやIoT時代に向けたこれからのサービス設計
最適な形に変化が可能なデータ形式とボリューム
現在ウェブサイトやアプリの構築に必要なhtmlやCSS、js、イメージやテキスト。
チャットボットが普及した世界においては、必要のないものもあれば、追加で必要になる情報もあります。
更に今後はIoT(家電がインターネットと接続される)時代となれば、画面すらもたないデバイスとのユーザー接点を考慮したサービスの設計が求められることになります。
将来的なサービス設計は、音声操作や非接触での操作を含め、あらゆるユーザーの操作やコミュニケーションに対して柔軟で、汎用的な情報の管理が求められるようになるでしょう。
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